220817

白山をいただく。 | Day 1

 

 

日本三名山のひとつ、白山のお膝元で25年ほど暮らしているわけだが、どういうわけか一度も登ったことがない。当たり前な存在すぎて関心がなかったのだろう。住んでいる市の名前にもなっているし、「白山市出身です」と胸を張って言いたい。そこで1泊2日の登山計画を立てた。幼馴染のリュウトとタカイを誘うが、3人とも登山自体が人生初だ。知人、先輩、家族、いろいろな人にアドバイスをもらい、ワークマンをはじめとするショップで買い揃えたお手軽装備で挑むこととなった。登山のゴールは3つで「ご来光を拝む」「満点の星空を仰ぐ」「エメラルドブルーの池を見る」だ。

 

 

当日はお盆の最中、市ノ瀬の駐車場は車で溢れかえっていた。シャトルバスに乗り換え、別当出合の登山口まで向かう。ちょっとした冒険感もあってぼくたちの心はワクワクしていた。天気予報では雨だったが、少し小雨が降る程度だったのでよかった。午前10時、準備体操をして、入口の鳥居をくぐり、冒険がはじまった。しかし開始10分で初心者3人組に違和感が訪れた。シンプルにキツいのだ。アドバイスをくれた人は口を揃えて「普通にしんどいよ」と言っていたが、想像の10倍足に負担がかかっていた。もちろん道は舗装されておらずゴツゴツした石で、階段2段飛ばしする高さほどの石段もある。「散歩の延長やと思っとった」とタカイが苦笑いを浮かべ、リュウトは無言で汗を拭う。早々に出鼻を挫かれたが、とりあえず行くしかないと小休止をはさみながら進んでいった。汗はすでにダクダクだ。

 

 

2時間ほど森のような道を進んでいくと景色が段々ひらけてきた。辺りは見渡す限りすべて山、その奥も山。「人間」を感じさせるものは山荘のみで、これだけの非日常感を白山市で味わえることが驚きだった。「すげえ」としか3人の口からは出なかった。カラフルな高山植物がアクセントになっている緑の世界で、自分のちっぽけさというか、自然の壮大さというか、そんなものを感じていた。本日の宿である室堂へエコーラインというルートで山の尾根に沿ってめざす。万年雪が溶けだし、日本海まで続く手取川のはじまりを見れたことも大きなポイントだった。このエリアは「もののけ姫」のエンディングで流れる曲がピッタリで、足取りは軽く、気持ちがよかった。

 

 

エコーラインから1時間半ほど進み、午後2時半に室堂チェックイン。20代前半の男性スタッフが宿へ案内してくれた。「今日はずっと霧なので、星は見えないと思います」たしかに事前に見ていた写真では室堂のすぐ奥に白山山頂が見えていたが、姿形さえ見えないほどの霧だった。1つ目のゴールが霞んだ。残り2つに賭けよう。お腹が空いたので持参したカップヌードルをいただく。なるべく荷物は軽くしようと小型のガスバーナーとインスタント麺を持ってきたのだが、周りの人を見て愕然とした。鍋をする夫婦もいれば、パスタを茹でるソロ男性、肉炒めを食すグループなど、豪華なキャンプ飯のようなクオリティだった。もちろんカップヌードルだけでは満たされず、売店にあるスナック菓子を片っ端から口にしていたが、敗北したような心は満たされなかった。「次は1番豪華な飯にしようぜ」と2回目の登山がここで決定した。室堂の消灯時間は午後8時半で、6時を過ぎると歯を磨き、寝る準備をする人が出てきた。疲れもあって消灯1時間前には3人とも眠りについた。残る2つのゴールを楽しみにして。

 

 

 

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